ポルシェより、フェラーリより、ロードバイクが好き 熱狂と悦楽の自転車ライフ (講談社文庫)
自動車雑誌の名編集者が書いた自転車エッセイ。
自動車の造詣の深い筆者が、如何にして自転車にはまり、どのような自転車ライフを送っているか、自身の経験と勘を元に描かれており、さすがの文章力で軽快なエッセイとして仕上げられている。
筆者は現在のスポーツバイクブームが始まるずっと前からロードバイクに乗っていて、現在のようにネットの情報網もないまま、人づて、もしくは、個人の情報収集能力で、ロードバイクライフを深く楽しんでおり、その行動力に驚かされもする。
ロードバイクはレースに出るものだという先入観以外に特に理由もなくサーキットに出向いたり、糸魚川300kmファストランという超ロングライドイベントにも、初心者レベルの頃から、勢いで参加しているのだ。
逆説的だが、現在は、ネットでの情報収集が容易だからこそ、溢れる情報処理ができないため、行動を起こせない弊害があるような気もする。
何かをはじめるときに必要なのは勢いだ。その勢いは調べれば調べるほど、膨大なやることが見つかり、また、検討しなくてはならないことが増え、急速に萎んでいってしまう経験がよくある。
ロードバイクの最初の一台を買うハードルが高いのも弊害のひとつだと思う。
個人的な経験では調べるほど、何を買えばいいのかわからなくなった。あれも、これも、どれも良いような、どれも良くないような気分になった。
PCやスマホ画面を見ていると、現実感も希薄になってしまうのではないかと、推察する。
結果、案ずるより生むが易しで、ショップで現物を見て、色がかっこいいなとか、ロゴがかっこいいなと思い、意を決して店員さんに在庫を確認した瞬間、一気に買うことがリアルになった。
たったひとつの行動が数百の検索に勝った瞬間だ。
そして、ロードバイクを手にいれてから、最も大事なのは、ロードバイクでどこを走るかということに気がつく。買う前に気にしていたスペックやら、アルミやらカーボンやらは、極端な話どーでもよいことだなと思う。
筆者のように、いろいろな自転車を試しのりしたり、仲間に恵まれていないが、ロードバイクを手にいれてからは、圧倒的な行動範囲と自己対話の機会を手にいれ、週末にはどこかへ駆け出して行きたくなる解放感を手にいれた。
自転車は車やバイクとは違う。自動車の専門家もそういうなら、間違いないかもしれない。
しかし、糸魚川ファストランとか、サーキットはまだまだ、遠い世界の話のようにも感じる初心者の私であるが、それも申し込んで見てしまえば、リアルになるのかもしれない。
行動するから結果がある。
よい結果か、悪い結果か、そんなに白黒つくものでもないから、やったもん勝ちなのではないか。そう思わせてくれるエッセイであった。
ロードバイクをはじめたいけど、金銭的、心理的にハードルを感じ始めたら、おすすめの一冊。
route92