ロードバイクに乗り始めの頃は、サイクリングロードを行ったり来たりしているだけで楽しいものだが、ある日、ふと思いついて高尾山や奥多摩などの峠を登って見る。
ロードバイク初心者が、一人で初めての峠を登るのはある種の「冒険」である。
普通の生活で自転車を乗っているだけでは、10kmも続くような上り坂を自転車で登ることはほぼない。南米のボリビアに住んでいるなら別だが、日本人にとっては少ないだろう。でも、そのヒルクライムの冒険は楽しみの一つである。と同時に初心者にとってはヒルクライムはつらいものでもある。
そんな10kmも続く山道をたった一人で登ったのが私の本格的なヒルクライムの初体験であった。ロードバイクに乗り始めて2ヶ月ほどの冬の頃だった。その時の心象風景についてまずは簡単に描いてみる。
ロードバイク初心者が、たった一人で初めてのヒルクライムにチャレンジする心象風景
誰かに誘われて峠に行くのと大きく違うのは、この苦しいヒルクライムがいつ終わるのか全くわからないことだ。ロードバイクのペダルを漕いでも漕いでも時速10km程度のスロースピードで目の前に見えるカーブがなかなか近づいてこない。足や腰も痛くなってきて、心拍数も激しく上がりきっている。
へこたれそうになりながらも登り続けていき、気持ちが楽になるのは、ヒルクライムの行程の半分を過ぎた時だ。折り返し地点を過ぎあとはゴールに近づくだけだ!と歓喜する。しかし、最初からゴールには近づいていたのだ。錯覚のような喜びが消えると、まだ、今まで登ってきたのと同じだけ登らなければいけないことに気がつくと、再び心が折れそうになる。しかし、いくら辛くてもここで断念することはもうできない。せっかく半分も登ってきたのにもったいないという気持ちがわき起こる。人間は積み上げてしまったものを崩すことはなかなかできない。それは根性ともまた違う感情である。
さらに半分の半分を登ると、ゴールである山頂までもう目と鼻の先になったと感じ始め、再び、気持ちが楽になる。実際、あと2km程度であればすぐの距離なのだが、すでに体が足が限界に近づいており、さらに辛くなっている。
そう、本当の地獄はここから始まる。目の前にゴールという希望がちらつきはじめ、、カーブのたびにゴールではないかと期待するが、ヒルクライムの残り2kmは意外と長い。カーブを曲がった先にもまた坂道が続いている。そして、次のカーブこそ曲がったらゴールか!?と期待して曲がっても、また次の坂がまっすぐ伸びている。
この希望と絶望繰り返しが山頂まで10分強続く。峠から与えられるアメとムチいより徐々に精神崩壊へと追い込まれていく。完全に崩壊するギリギリのところで、山頂に辿り着くことができれば、生きている喜びと最高の達成感を味わい、生還できる。
この苦難に敗れ、精神崩壊をしたロードバイク乗りは、バイクと一体化し、そのまま鬱蒼と茂る森の奥へと消えていったまま帰らないという。噂では、時折、ヒルクライムをしているロードバイク乗りの後ろにいつの間にか現れ、「お前の坂はまだまだ終わらない」と囁くのだという。恐ろしい話である。
しかし、初めての坂こそ、一人で登り、冒険気分を味わいたい
そんな亡霊にならないためにも、初心者は一人でヒルクライムに挑戦するのは極力避けるべきという考え方もある。だが、私は、初めての坂、峠のヒルクライムは一人でチャレンジしたい。それは、初めての坂はいつ終わるかもわからない坂を登る冒険にドキドキするチャンスだからだ。
もちろん、何度も登ったことある熟練チャリダーに連れて行ってもらうのは安心だが、まだまだ先は長いぞとか、あともう少しだとか、あのカーブの向こうがゴールだなどと言われてしまうと、終盤の坂を曲がるときの期待と絶望が入り乱れるあの感じが味わえないのがとてつもなく勿体無い。
もしくは、誰かと登るなら、みんな登ったことある坂か、みんな登ったことない坂がいい。
みんな登ったことのない坂を登った後の「坂の品評会」も楽しいものである。あのカーブがどうだとか、いっぺん下り始めたから終わりだと思ったら、最後にえらい坂待ってたとか。人それぞれの苦しいポイントと共感があって、いま、皆が倒した坂の強さを再確認して、達成感が増幅するのだ。
いつかは富士ヒルクライム!と思ってもつらい
そんなつらくて楽しいヒルクライム。私をはじめ、一人で登ることが多いロードバイク乗りも多いことだろう。そして、そんなロードバイク乗りが何度も陥るあの心境。
「俺は、一体なぜ、こんな苦しいことをやっているんだ?」
時折、この問いが頭の中をぐるぐる回る。こともある。
そんなときの対処方法を考えてみた。
少し前フリが長くなってしまったが、本題に入るとしよう。
ロードバイク初心者が、ヒルクライム中に何故こんな苦しいことしてるんだと疑問を持ち始めたときのオススメの対処方法
誰しもヒルクライム中ふとした瞬間にこの考えに取り憑かれてしまった経験が少なからずあるだろう。大事な休日に数時間かけて、山奥まで行き、1時間もかけて山を登る。そして、あれほど苦しみながら登った坂も下ればあっという間に終わり、また数時間かけて家まで帰るのだ。ヒルクライムレースに出て優勝しようなどと思っていない多くの趣味ライダーにとっては、ヒルクライムの意義を見失いと陥りやすい。
こんな時の対処の方向性は、いくつか考えられる。
ロードバイク初心者がヒルクライムへの疑問に陥った時の5つの対処方針
- 分離法
- 置換法
- 仮定法
- 対症療法 (表面に表れた状況に対応して物事を処理する方法)
- 原因療法 (症状の原因そのものを断つ方法)
今回、紹介するのはこちらの5つの方針でのヒルクライム疑心症(ヒルクライムに疑問をいただいた心境)に対する対処方法をご紹介する。
1.分離法
最もオーソドックスなヒルクライム疑心症に対する対処法だと考えられる。心と体を分離して、さながらゾンビのようにペダルを漕ぎ続ける存在になることを指す。
そもそも疑心症に陥るのは体力と精神の限界が近づいているのが原因である。そこで、体力と心が連動しないように意識的に分離するのである。ゾンビはなぜ生きているか考えないが、歩き続ける。そんな状態に持っていくのだ。この場合、頭の中はなるべく空っぽにするのが成功の秘訣である。
2.置換法
置換法もよく用いられる手法である。意味がないことしていると思い込み始めたヒルクライムをもう一度見つめ直し、新しい価値に置き換えるのだ。
置換例
- ヒルクライムがつらい。
- →つらいのは、負荷の高い運動をしているからだ。
- →いつも以上にカロリーを消費している。
- →4000kcalは消費するだろう。
- →ラーメンなら3杯くらい食べてもいいだろう。
- →何より、いつも以上に飯がうまいと感じるだろう。
- →このヒルクライムのおかげだな。
- →登るぞ
といつの間にかポジティブな感情へと置き換わっていくだろう。
「ご飯への置換」「ダイエットへの置換」「筋肉への置換」などが主な置換の方程式である。
置換法は、またの名を「すりかえ法」ともいう。OL同士のランチタイムの会話、痴話喧嘩などのシーンでとくに女性が得意としている手法である。
3.仮定法
仮定法は、慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。コツをつかむ感覚が必要である。
「もし、俺が、○○だったら、こんな坂簡単に登れるぜ」とか
「もし、この坂を登れれば、俺は○○に近づくぜ」
という全く根拠も、意味のない仮定をして今の苦難を乗り越える手法が仮定法である。
ロードバイクレースファンであれば、好きな選手をイメージするのが良いだろう。自転車に直結もしているのでイメージがしやすい。コンタドールのダンシングは初心者でも最もイメージしやすいだろう。
実際、回復のためのダンシングは覚えたほうがいい。足ではなく、体重でペダルを漕ぐのがコツである。
ロードバイクは乗るのが好きで、レースとか見ないしーという人も多いだろう。そんな人は自分の好きなマッチョを思い起こすのがいいだろう。格闘技の選手や漫画の主人公がオススメだ。
間違ってもジャギなどの雑魚をイメージしないほうがいいだろう。
アミバのようにロードバイクにハマる雑魚キャラもいるかもしれないが。。
これは、たられば法ともいい、とくにアラサー、アラフォー女性が恋愛に悩んだ女子会などで活用されることが多い。この辺りは「東京たられば娘」という漫画に詳しく載っているので気になる方は参考にしてみてほしい。
4.対症療法
これは非常に高度な医学的アプローチの一つである。
医学でいう対症療法は、疾病の原因に対してではなく、主要な症状を軽減するための治療を行い、自然治癒能力を高め、かつ治癒を促進する療法である。
つまり、頭が暴走を始め、疑問を抱き始めるという脳の症状を軽減するための治療を行うのだる。ヒルクライムの意味などという哲学的な思い疑問に対して、矮小な疑問をぶつけることでもともと持っていた症状を忘れさせる方法である。
足をくじいた時の痛みを忘れるために、腕をつねってその痛みで元の痛みを忘れるという考え方に近い。
矮小な疑問は人それぞれ工夫してもらえれば良いが、例を挙げてみよう。コツはどうしようもなくしょうもないが、結構、考え甲斐のある疑問が良いだろう。
効果が高い矮小な疑問の例
- 100万円あったら何に使う?
- 3つ願い事が叶うなら何にする?
- 1日だけ好きな超能力が使えるならどんな能力にする?
ヒルクライムの意味なんて考えても答えの出ない疑問は頭の片隅に追いやることに成功するだろう。考えているうちに坂も登れている。
5.原因療法
最後は、原因療法。これも医学的なアプローチである。症状の原因となるものを見つけて、それを元から治療して、原因を絶つという方法である。
この場合、ヒルクライムが原因であるのは明白である。
「ヒルクライムをやめる。」
単純かつ美しい解である。
さらに、こうつぶやくといい「俺は、スプリンターだ」
明日からは、平坦路を爆走しよう。ディープリムホイールを買って地上最速を目指すのが良いだろう。
初心者のヒルクライム疑心症の5つの対処方法まとめ
いろいろな対処方法をご紹介したが、いかがだろうか?
自分にあった対処方法で対応してほしい。そんな対処をしながら何度も山を登るうちに少しずつヒルクライムが純粋に楽しくなってくるだろう。そして、ヒルクライム疑心症の症状は感知し、趣味ライダーとしては一目置かれるヒルクライマーになっているかもしれない。
5.原因治療のヒルクライムをやめるは、最後の手段ですかね。自分の得意分野を伸ばしたほうがいいですしね。私もまだまだヒルクライムは苦手なので、1〜4を駆使して頑張って、手強い峠をロードバイクで必死こいて登り続けていこうと思う。
(おまけ)初心者におすすめ。もっと現実的なヒルクライム攻略方法
ホイールなどでロードバイクの軽量化を図る
本を読んでヒルクライムの技術やコツを習得する
Route92