え!ロードレース至上主義をディスる刺激的な自転車入門「ジャストライド」

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今日は珍しく本のレビュー記事を。といっても自転車関連の本だ。

ジャストライド ラディカルで実践的な自転車入門

グラント・ピーターセン著 沼崎敦子 訳 2,376円(税込)

なんか、ちょっとおしゃれでウィットとシニカルな雰囲気の漂う本である。

筆者は、アメリカ人。彼は40年も自転車業界で働いてきたバイクライダーだ。アメリカのサイクリング界の人気ライターでもある。

彼は、最近のレース至上主義のロードバイクの世界観にちょっぴりうんざりしているようで、本著では、そんなレース重視のサイクリングの数々の常識に大胆にメスを入れ、趣味で自転車に乗ることより楽しむための実践的な自転車ガイドとして上梓された。

そんなアメリカ人の自転車大好きなおっさん。その道のプロが、どんなことを考えているのかな、なんて興味本位で本を立ち読みはじめると面白い。

技術的な面でも精神的な面でも、さすが一日の長のある先輩ライダーためになる。そして、また彼の文体のシニカルながらズバッとした物言いが、実に軽快で面白い。

熟練ライダーから、初心者まですべてのロードバイク乗りに刺激を与えてくれる良著であった。簡単ながら、ピックアップして紹介する。

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書評/ジャストライド ラディカルで実践的な自転車入門

「ジャストライド」のタイトルに込められた思い

タイトル「ジャストライド」。ただ乗るだけ。シンプルで力強い言葉である。

自転車入門のタイトルとしては、なかなか分かりづらいタイトルである。本書を読むと、筆者がなぜこんなタイトルにしたか、なんとなく理解できる。

ロードバイクに乗っていると、ストイックに速さを求め始める、もしくは、速さを周囲に要求される雰囲気・プレッシャーが漂ってきたりする。

レースが中心の価値観でもあるロードバイクの宿命かもしれないが、そのせいで自転車に乗ることが楽しくなくなったら意味がないと伝えようとしている。普通のロードバイク乗りはレースなんて目指さなくて、真似しなくていいのだと。

ロードバイクに初めて乗ったとき、ただ乗っただけで、これまでに乗ってきたどんな自転車とも違ったその軽さ、乗り心地、スピードに最高の気分になったものだ。

ジャストライド。 ただ乗るだけで楽しかったことを思い出そう。

子供の頃だって、自転車で町中をただ意味もなく走り回ったものだ。

そんな自転車を乗るという根源的な楽しさの復権を狙い、この本は書かれている。

もちろん、ロードバイクでレースの世界を目指すのも楽しいだろう。(目指せるなら目指してみたい。)

しかし、その道以外にもロードバイクを楽しむ道はたくさんあることを思い出して欲しいそんなメッセージ性の強い自転車入門である。

またサブタイトルは、「ラディカルで実践的な自転車入門」。これは、そんなレース至上主義のロードバイクの常識を覆すラディカルな(ちょっと過激な)切り口で提案するからだ。それがこの本の持ち味で、面白さである。

冒頭から、筆者はこう語る。

この本で僕が主に目指すのは、自転車レースがバイクや装備、心構えなどにもたらす悪しき影響を指摘し、それを改めることだ。

と、いきなり今のロードバイクメーカーやウェア製造業者、卸売、小売業者、などなどに「悪しき影響」を与えるな!と喧嘩を売る。

続いて、彼はこの本で論破したいと思っているロードバイクの神話(常識)はこれだ。と幾つか例に挙げる。

  • 170グラムのバイクヘルメットは、頭部を広範囲に守ってくれる。
  • ハードな長距離ライドは健康的で、喜びに満ちた人生をもたらす。
  • レーサーは素晴らしいお手本だ。
  • 炭水化物は最高のエネルギー源だ。
  • サイクリングは減量にもってこいだ。
  • 今日の技術の進歩によりバイクライドはより楽しく効率的になっている。

などである。

え?違うの?と、ちょっと私もドキッとする常識もあったりする。これらのロードバイクレース発信の、もしかしたら、自転車関連会社発信の常識に対して、筆者は次々にメスを入れていくのだ。

そんなラディカルなテーマが全8部構成で、彼の視点と経験を元に展開されていくエッセイでもあり、実践的な示唆にも溢れている不思議な自転車入門である

これが、私のこの本に対する評価であり、賞賛である。

ロードバイクのレース至上主義から少し離れた視点も持ってみようかなと思ったら、ちょっと彼の世界を覗いてみるのも面白いかもしれない。

目次の紹介

私の拙い文章ではなかなか魅力や興味を持ちづらかったかもしれない。

目次を紹介する。彼の視点は、やはりロードバイクの常識的な視点を少し違っていて面白い。

PART1 ライディング

最初のテーマから、今のロードバイクの常識に反論。

1.ペダルをぐるぐる漕ぐべからず

ペダルは円を描くように漕げという神話は確かに聞いたことがある。しかし、彼はあっさりそれを否定する。足は、前後、上下に動かすようにできているが、円を描くようにできていない。だから、ペダルは踏み込めと。左右交互にテンポよく踏み込めと。

誰もペダルを引き上げたりしていない。プロさえも。

それは一流のライダーを機械につないで筋肉の動きをモニターした研究で証明されているそうだ。もっとも効率の良いライダーは、上昇してくるペダルに載せる体重を最小限に抑えて、踏み込んだ足の勢いを殺さないように注意する。それが理にかなっているということだ。

この話、信じるか信じないかはあなた次第である。

ビンディングの引き足、うまく使いこなせますか?と常識を真っ向からぶった切ってくる。

PART2 装備

第2部では、サイクルウェアをぶった切る。ただ、彼はもうロングライドに出るほど精力的なライドは自分には不必要と考えているようだ。

確かに1、2時間程度のライドであればそこまで服に気を使わなくてもいい。

PART3 安全性

安全性の話もまた過激で面白い。

予測の罠では、ロードバイク乗りの安全に重要なのは自分が「予測する」のではなく、「予測させる」ことだ。となかなか過激な提案をする。自動車の運転手があいつちょと不安定で危ない自転車乗りだなと思わせるように、近づいてくる車に気づかずちょっとだけ蛇行してみせよと。そうすることで、運転手は自転車をより慎重に追い抜く傾向にあると筆者は語る。

すごい視点である。これはむしろ自動車のドライバーを信頼しすぎであるように思うが。

PART4 健康とフィットネス

ちょっと股間問題が多い気もするが。ロードバイクでは気になるところだから当然か。

PART5 アクセサリー

なんとグローブもいらない!と言い出す始末。

しかも、その理由はなくすから。ちょっと切り捨てすぎだ。

転倒で手をつくからグローブは手の皮がずるむけになりたければグローブはしたほうがいい。私はこれを読んでもグローブはやめる気はない。

気分的にもグローブつけたほうが乗るぞ!って気分がするし。

PART6 維持

ここは意外と常識的て実用しの高い話が多い。

 PART7 専門知識

重さの罠は、示唆に富む。

100グラム1万円のロードバイクの機材の神話。

10kgのロードバイクを最高級のグレードの8kgにして2kg軽くなっても、エンジンたる自分の体重が70kgあれば、トータル80kgが78kgになっただけであると。全重量の実に2.5%ほどしか変わらない。ダイエットしたほうが安上がりだ。

PART8 ヴェロソフィ(自転車哲学)

ヴェロ(自転車)のフィロソフィー(哲学)で、ヴェロソフィーである。

自転車が大好きで乗っているうちに、ライダー達は、それを周囲に教えたくなる。しかも結構、しっかりロードバイクの常識を伝えようとしてしまう。そのせいで、家族たちはちょと引いちゃう。そんな示唆に富んでいるのが、「君の家族を自転車嫌いにするには」の章だ。

あ、おれもやっちゃってたかも。と思った。

以上、目次とちょっと気になるテーマの紹介である。

総じて、過激な切り口でもあったりするが、それも彼が自転車乗りの幅を広げたい、視野を広げたいという思いによるものだ。そして、彼の経験を取り込むかどうかは、別に強制でもないので、私は参考になるなと思う部分は今後生かしたいと思う。

グローブはするけどね。

実は、この本は、和訳の評判がちょっと悪い。日本語への変換がロードバイクの知識が稚拙な翻訳者だったのか、非常に複雑な分かりづらい記述になっているところもある。英語の得意な人は原著を読むのが良いかもしれない。しかも安いし。

英語が苦手な人は、日本語版を読むことになるが、翻訳が多少難があるとしても、なかなかこの手のロードバイクの常識を疑った視点のエッセイは出ていないので、読む価値は十分ある。

ジャストライド。

これからロードバイクを始めようという入門者より、ある程度ロードバイクに乗っている人の方におすすめしたい。

ロードレース至上主義を批判していても、私はそれも一つのロードバイクの楽しみ方であるから、この本の視点は少し狭くなりがちなロードバイクの世界をもう一度、広げてくれるという意味で価値があると考えた。

ストイックに人より速く走りたい、楽にヒルクライムできるようになりたいという欲求も純粋で素晴らしいことだと思う。走れるものならば、私も速く走りたい。

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Route92